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社会的養護のアフターケア事業における支援事例【4】〜NPO法人えんじゅのお取り組み〜

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2022年の児童福祉法改正によって、アフターケア事業の対象者が広がることになりました。

「社会的養護の措置解除者(退所者)」から、「社会的養護経験者“等”」へ。虐待経験がありながらもこれまで公的支援につながらなかった人たちも、事業の対象に含まれることとなりました。

そこで今回は、その変化に合わせて活動を展開されている、社会的養護のアフターケアに取り組む団体で構成する全国ネットワーク「特定非営利活動法人えんじゅ」の理事長 高橋亜美さん、副理事長 矢野茂生さんに、活動の想いや法改正によって変わってきていること、今後の展望などについてお伺いしたお話を全6回の連載形式でお届けしています。

前回の記事はこちら

第4回の今回は、2022年の児童福祉法改正を受けて国の制度が変わっているところに関連してお話をお伺いしていきます。

前回(第3回)の記事では、矢野さんに今回の変化をどのように捉えられていらっしゃるかお伺いしてきましたが、

高橋さんはいかがでしょうか?

「等」という言葉が入って、困難な状況、苦しい人たちを一応全部対象にできるっていう制度ができたのは、すごく大きな1歩かなと思っています。 

 

私も自立援助ホームの職員を長くやっていて、ゆずりはに移行してっていくなかで、「自立」っていうワードがずっとついて回ってきたけど、本当に何を持って自立かっていうのは、もう1人1人本当に違うから、それを一生懸命「自立とは。」っていうので、 こっちで色々考えて、それを押し付けても、全然そこが本人にとっての自立っていうところと繋がらないみたいなことばっかり起きて。 

 

私は自立っていう言葉や、概念に苦しめられてきたっていう声の方が、より多く聞いてきたから、自立援助ホームの時も、ゆずりはを始めてからも「自分は自立してるからもっと頑張んなきゃいけない」とか「簡単に頼っちゃいけない」という声を聞いてきました。助けての声を上げにくくするのが「自立」というワードとも思ってきました。

 

自立ってもう本当嫌だな。よくわかんないけど、なんかよくわかんないから、本当嫌だなっていうのがあります。 

 

それで考え方としては、「自立できるために私たち何できるんだろう」っていうよりは、「孤立しないためにこちら側でできること」、自立のためにっていうよりは、孤立しないために私たちが応援できること何かな。みたいなふうに考える方が、なんか開けてくっていうのを思っています。 

 

そしてさらに最近は、孤立しないためもそうですが、安心して生きていくためにできることはなんだろうっていう風に考えるようになりました。 

 

自立じゃなくて、安心して生きていくっていうことが1番大事だなっていうのがあって。 

 

そこに住まいが持てることもそうですし、ちょっとずつ働けるみたいなことだったり、安心して眠れるようになってきたみたいなこととか。   

 

自立を真ん中に置くと、なんかすごく堅苦しくなって、ガチガチになっちゃうっていうのがあって。 

 

私が今たどり着いたのは、「安心して生きていくために私たちができること「と、「本人がどんなふうになったら安心して生きられるか」みたいなことを問いていく方が、相談してくれた人とのやり取りのキャッチボールが続く感じがします。 

 

「あなたにとって自立は何なのか」「自立してますか?」って聞いても、「よく分からない」という感じだから、「あなたにとって安心って何かな。どういう時に楽しいとか嬉しいとか出てくるかな。」みたいなやり取りの中に、働くだったり、高卒認定取るだったり、ただおしゃべりするだったりとか、こういう場所が必要、こういう取り組みが必要ということを見つけて今のゆずりはがあるという感じです。 

ありがとうございます。  

おふたりもおっしゃっているのが「等」という言葉ですね。その1文字の大きさを改めて感じています。 

ラベリングされるみたいなことに対しては、いいところもあれば悪いところもあるのかなと思いますが、やはり社会全体が本流を広げていくことを目指していく必要があるのでしょうか。 

 

僕らの先ほどお話したいろんな相談支援の、いろんな属性の相談支援がごちゃ混ぜになってるうちのセンターでは、僕らの職員がずっと言っているのは、若者が来た時に「この人は社会的擁護ですよね」「退所者ですよね」「引きこもってる子ですよね」みたいなことは一切言わないんですよね。   

 

来た時には「困ったやつが困った顔して入ってきた」という、それしか言わない。 

 

だから、みんな困っていて、その困った人がなかなか来るんです。こちらのアウトリーチがほとんどなんですが「 困った若者がそこにいる」っていうだけなので、それでラベリングって言い方はちょっとまた言い過ぎかもしれませんが、制度とかいろんな手帳でもなんでもそうですけど、あれってほとんど大人が支援しやすいためにする大人のニーズですよね って僕は思っています。   

 

例えば就労支援とかする時に「手帳があったらあそこに行けるから手帳取りなよ」っていう支援と、もしくは本人が「あそこに行きたいから、あそこに行くためにはどうやって手帳取ったらいいんですか」っていうのは多分同じようで全然違います。  

 

だから、大人側のニーズでガンガン動かしてるっていうのは、支援しやすいようにですね。 

 

でもそれって基本的には手続き論で、 住民票の判子もらいにくのとあんま変わらないっていうふうに僕は思っています。 

 

なので、本人がどういうふうに自分のこれからを考えていけるかっていう時に1番大事なのは、僕らが繋がり続けておくこと。 

だから、その本人がそういったことができるまで、かなり繋がり続けるっていう努力をたくさんしています。   

 

そしてその中で、本人の変化とか、途中は本当にぐちゃぐちゃなことがあったり、たくさんの思いがあるんですが、 いろんなことを通過しながら、本人が「自分がどうやったらできるかな」っていうのを、その時にキーワードとして、就職とか高卒認定を受けるとかいうことじゃなくても、僕らはみんなキーワードにしてるのが「参加する」ということで「参加」という言葉を使っています。 


 
ありがとうございます。  

矢野さんの考える自立や必要な支援という点で、「参加」という言葉がすごく大事なキーワードになっていることを感じています。

第5回となる次回は、矢野さんと高橋さんの現在のご活動で大切にされていることをお伺いします。