ICT教材を活用した不登校支援のレポート〜学びに向かう姿勢と学習履歴から読み解く行動変化との相関関係〜
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0.サマリ
名古屋市教育委員会では、同市内の適応指導教室における学習支援を、ICT教材「スタディサプリ」を用いながら実施中です。本レポートは、この取組に関し、2018年度の効果検証結果を伝えるもので、児童生徒の満足度、学習を通した主体性の変化とともに、蓄積された学習履歴も活用することで「児童生徒の回復状態によって、学習行動について差異や変化はあるのか」を解き明かすことを目的とします。
1.学習支援について
名古屋市教育委員会では、2017年8月より、市内の適応指導教室において、スタディサプリ小学講座・中学講座を活用した学習支援を実施しています。
ICT教材・タブレット教材を用いた不登校支援はこれまでにも例がありますが、目的を学力補充ではなく、学校での授業を受ける機会が少ないことに起因する精神的な負荷を和らげること、また学習上のつまずきを知ることに置いた、より児童生徒の目線に立った学習支援としています。
したがって、利用はあくまで児童生徒のうち希望者とし、利用方法や取組教科・単元についても自主性を尊重しながら、児童生徒と支援者とで話し合いながら決めていくことで、使用をしています。
2.効果検証結果
2018年11月に児童生徒に対しアンケート調査を実施するとともに、「スタディサプリ」に蓄積された学習履歴を解析することで、効果検証を実施しました。
※アンケート実施概要
- 実施時期:2018年11月
- 対象者:期間中にスタディサプリを利用した児童生徒
- 回答数:55名
※学習履歴
- 対象期間:2018年4月〜11月
(2-0)効果検証結果のサマリ
- 学習支援全体、教材についての満足度は高い結果となった
- 学習を通した主体性の変化についても、およそ8割の児童生徒がポジティブな変化を実感していると回答した
- 児童生徒の回復状態によって、学習行動について、特に学び順(単元間の移動の仕方)に各特徴があらわれた
以下に各検証事項について記載します。
(2-1)スタディサプリを用いた学習支援への満足度はどうだったか
- 学習支援全体への満足度は100%であった(とても満足5%、やや満足25.5%)
- 教材内の各コンテンツについても満足度は高く、授業動画への満足度は100%(使ったことがない5%を分母より除く)、ドリルへの満足度は95%(使ったことがない16.4%を分母より除く)、一方でゲーミフィケーション要素であるサプモンについては、利用者の満足度は高いものの、約半数は使ったことがなかった
(2-2)学習を通して児童生徒の主体性はどう変化したか
- 学習を通した主体性の変化を測る項目、いずれの項目においても、およそ8割の児童生徒が該当すると回答した(とてもあてはまる、あてはまる)
(2-3) アンケートで回答された主体性の変化と学習行動との相関関係はどうか
- 学習を通して主体性の獲得を自覚している児童生徒ほど、学習行動として「1〜2単元の範囲内で単元を戻りながらさかのぼり学習を実施している」また「1単元先に進みながら着実に学習を積み重ねている」ことがわかった
- なお、これは前年度までの取組みにおいても仮説構築し検証を行った、不登校の児童生徒が回復までにたどるモデルとも合致するものである
(参考)昨年度検証した仮説:
不登校の子どもたちは回復途上において以下の3段階をたどる
phase1. 現在の自分と向き合っている
学習行動の特徴
- 不登校になった時点の自分と向き合うのは辛く、さかのぼって学習することは難しい
学習履歴データ上の特徴
- 自学年の単元に取り組んでいる、
- 過学年の単元に取り組んでいても、継続して取り組むことは難しく、単元間を点々と移動している
phase2. 過去の自分と向き合っている
学習行動の特徴
- 不登校になった時点ないし学習空白期間の最初までさかのぼって学習を開始し、継続して取り組んでいる
学習履歴データ上の特徴
- 不登校になった時点から学習を開始している
- 単元順に継続して学習に取り組んでいる
phase3. 未来の自分と向き合っている
学習行動の特徴
- 目的意識をもって主体的にさかのぼって学習している
- 単元順に継続して学習に取り組むとともに、自ら取捨選択して必要箇所を学習している
学習履歴データ上の特徴
- 単元順に継続して学習に取り組んでいる+前後2単元程度の範囲内での周遊がみられる
- 授業動画の飛ばし再生頻度が高くなる
3.今後の支援への活用方針
- 大前提として、タブレット学習はあくまで自主性の原則のもとに成り立ち、その利用法もまた児童生徒の自主性・主体性にもとづくものであるため、学び方の強制はいっさい行わない
- 一方で、主体性が育まれ自己肯定感の向上がみられる児童生徒とそうでない児童生徒との間には学習履歴上の行動において差異がみられることも事実
- 今後とも支援者としては、児童生徒とのコミュニケーションの中では、専門家によるアセスメントを踏まえながら、より主体性を育むことにつながる学習法をサジェスチョンすること、また学習履歴上の行動変化から推察できる児童生徒の内面変容については支援者間で随時連携することを継続していく
4.(参考)アンケート実施概要
- 実施時期:2018年11月
- 対象者:期間中にスタディサプリを利用した児童生徒
- 回答数:55名(中学部:38名、小学部:3名、体験部:14名(中学生:12名、小学生:2名))
2022年6月25日
中学校の教員をしています。この4月に、不登校の生徒がものすごく多い学校に異動になりました。2カ月かけて、少しだけ生徒に近づくことができるようになったように思います。しかし、キャリア学習に取り組んでも、自己肯定感が低く将来の姿を考えることはできない彼らに、どのような支援ができるか毎日悩むばかりです。市がタブレットで使えるドリル教材の運用を始める準備をしているようで、今回の学習教材を使った学習行動の特徴の分析は、大変興味深いものでした。現在は、行うとすれば、自分で選んだ自学年の単元についてのプリント学習を行うことが多く、後ろめたさを小さくするためだけのものになっていると感じるばかりでした。「不登校の子どもたちの回復途上における3段階」は、まさに今感じている部分の中心に係るものだと感じました。専門家によるアドバイスを受けることが困難な一般の学校現場においての、支えになるような支援事例を公開いただき、本当に感謝いたします。また勉強させていただきたいです。ありがとうございました。