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『生徒指導提要 改訂版』(2022年)のポイント 〜後編〜

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東京学芸大学教育学講座の伊藤秀樹先生に、202212月に出された『生徒指導提要 改訂版』の解説をお願いしています。今回は不登校、虐待、貧困について教えていただきます。

前編の記事はこちら

5.不登校に関して、改訂版で示されている重要なポイントを教えてください。

 最大のポイントは、「『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉え、社会的に自立する方向を目指すように働きかける」という点だと思います。

 学校や教員が、学校への登校(特に、所属している学校・学級への復帰)を唯一のゴールとしてしまうと、不登校の子どもは学びの機会を失ってしまうかもしれません。現在は、教育支援センター(かつては適応指導教室と呼びました)、不登校特例校、NPO法人やフリースクール、夜間中学など、不登校の子どものための多様な教育機会が用意されています。不登校の子どもに関わる教員には、今の学校復帰よりも将来的な社会的自立に支援の目標を置き、学校以外の多様な教育機会の活用も視野に入れながら、個々の状況に合わせて適切な働きかけや関わりを行うことが求められます。

 ただし同時に、学校内でもすべきことがたくさんあります。改訂版では不登校の未然防止に向けて、魅力ある学校づくり・学級づくりや、SOSの出し方に関する教育、教職員の相談力向上のための取り組みなどの必要性が述べられています。

6.児童虐待についてはどうでしょうか。

 児童虐待については、「少しでも虐待と疑われるような点に気付いたときには、速やかに児童相談所又は市町村(虐待対応担当課)に通告し、福祉や医療、司法などの関係機関と適切に連携して対応する」という点が繰り返し強調されています。

 「児童虐待の防止等に関する法律」にのっとれば、虐待を受けたと思われる子どもについての速やかな通告は、学校・教員がとるべき必須の対応となります。また、虐待が生じる家族には、医療、教育、福祉など多様な問題が複合していることが多いため、「要保護児童対策地域協議会」(通称「要対協」)を活用した多機関連携によるチーム支援が欠かせません。

 一方で、虐待通告後に在宅援助となった子どもや保護者を学校・教員がどのように支えていけばよいのかということについては、改訂版にはあまり書かれていません。個人的には、子どもの行動の裏にある苦しみや悩みを受け止める受容的な態度での生徒指導や、信頼関係を結びつつ保護者が支援の輪に足を踏み入れるようなきっかけ作りをするような関わりも、教員にできることの1つではないかと考えています。

7.ところで昨今話題になっている「貧困」の文字が目次に見当たらないのですが……

 たしかに目次には登場しないのですが、貧困については、食事がとれない、物が買い揃えられないといった貧困の直接的影響だけではなく、学力不振や、進路に希望がもてない、生きる意欲がわかないなどさまざまな面で影響があること、暴力行為・不登校・中途退学の背景になりうることなどが述べられています。

 しかし、学校を貧困対策のプラットフォームとして期待するのであれば、貧困世帯に育つ子どもやその保護者を支えるために生徒指導の観点から何ができるのか、1章を割いて丁寧に説明してもよかったのではないかと思っています。

 保護者の経済的な苦しさやそこから派生する困りごとが子どもの困りごとの背景にあることに気づいたとき、子どもへの見取りや生徒指導上の対応は必然的に変わってきます。そのとき学校・教員は、子どもの困りごとへの直接的な対応だけでなく、保護者が置かれている厳しい状況や困りごとの根を断ち切るための多機関連携も念頭に置く必要があります。そうした貧困への生徒指導的なアプローチについても、今後具体的な資料が出てきてくれることを願っています。

伊藤先生、わかりやすく教えていただき、ありがとうございました。